高速デジタル回路の設計現場で、こんな経験はないでしょうか。
- 回路図通りに設計したのに基板が安定しない
- 特定条件でだけメモリが誤動作する
- EMC試験で想定外のノイズが出る
論理設計に問題がないにもかかわらず不具合が出る場合、その原因の多くは信号品質(Signal Integrity)にあります。
そこで必要になるのが、SI解析です。
SI解析とは何か

SI解析(Signal Integrity解析)とは、高速デジタル回路における信号波形の品質を評価・検証する解析技術です。
単に「0と1が届くか」を見るのではありません。
評価するのは、
- 立ち上がり/立ち下がり時間
- 反射の有無
- リンギング
- クロストーク
- ジッタ
- タイミングマージン
- アイパターンの開口
といった、実動作に直結する要素です。
立ち上がり時間が短くなると、配線はもはや単なる導体ではありません。
分布定数を持つ伝送線路として振る舞います。
このとき重要になるのが特性インピーダンスと整合です。
インピーダンスが不連続になると反射が発生し、波形は崩れます。
回路図が正しくても、物理設計が甘ければ動きません。
これを設計段階で数値的に確認するのがSI解析です。
どのレベルからSI解析が必要か
ここが多くの設計者が迷うポイントです。
目安は「クロック周波数」ではありません。
重要なのは立ち上がり時間です。
信号の立ち上がり時間に対して、配線長が無視できなくなった瞬間、
その配線は伝送線路として扱う必要があります。
一般的に、
- 数百MHz以上
- 立ち上がり時間が1ns以下
- 配線長が数cm以上
このあたりからSIを意識すべき領域に入ります。
DDR設計ではSI解析は前提条件
代表的な例がDDRメモリ設計です。
Double Data Rate(DDR)は、クロックの両エッジでデータ転送を行うため、実効データレートが非常に高くなります。
DDR回路では、以下すべてが解析対象です。
- クロック(CK)
- データバス(DQ/DQS)
- アドレス線
- 制御信号
「データ線だけ見ればいい」という考え方は通用しません。
特にDDR4以降ではフライバイトトポロジが採用され、
アドレス系でも反射や遅延ばらつきが問題になります。
実務では、
- DQとDQSのスキュー管理
- オンダイターミネーション(ODT)設定
- ビアスタブの影響評価
- アイダイアグラムによるマージン確認
まで踏み込むのが一般的です。
DDRでSI解析を行わない設計は、正直に言ってリスクが高い。
PCIeや高速イーサネットでも同様
PCIeや高速イーサネットなどのシリアル高速インターフェースでも事情は同じです。
Gbps級になると、
- 損失
- 反射
- スキュー
- ジッタ
- クロックリカバリへの影響
を総合的に評価しなければなりません。
Sパラメータ解析や周波数ドメイン評価が重要になります。
SI解析が開発効率を左右する理由
SI解析は品質確保のためだけのものではありません。
最大の価値は、試作基板の手戻り削減です。
高速基板では、完成後に波形不良が発覚することがあります。
その場合、
- 終端抵抗追加
- 配線引き直し
- 層構成変更
が必要になり、基板を再製造することになります。
1回の再試作で数週間の遅延。
量産直前なら、影響はさらに大きい。
設計段階でSI解析を行えば、
マージン不足やインピーダンス不整合を事前に潰せます。
これはコスト削減というより、リスク管理です。
SI解析の本質
最後に重要なことを言います。
SI解析は「ツール操作技術」ではありません。
- なぜ反射が起きたのか
- なぜアイが閉じたのか
- どの物理要因が支配的か
これを説明できる設計者になることが本質です。
解析結果を鵜呑みにするのではなく、
物理現象として理解すること。
そこまで踏み込んで初めて、SI解析は武器になります。
まとめ
SI解析とは、高速デジタル回路における信号品質を定量評価する技術です。
配線は伝送線路として振る舞い、反射やクロストーク、ジッタを生みます。
特にDDRやPCIeなどの高速回路では、全信号系統が解析対象になります。
設計段階でSI解析を行うことは、
品質保証だけでなく、開発リスクを下げる戦略でもあります。
高速化が進む現代では、
SI解析は選択肢ではなく、設計の前提条件です。


コメント