基板設計では、「試作基板」と「量産基板」という言葉が当たり前のように使われます。
しかし、両者の違いを十分に理解しないまま作業を進めると、量産段階で思わぬトラブルにつながることがあります。
試作では問題なく動作していたにもかかわらず、
量産に入ってから品質・コスト・製造面で課題が表面化するケースは少なくありません。
この記事では、試作基板と量産基板の違いを整理し、
設計から製造までの流れと、実務で起こりやすい失敗例を交えながら解説します。
試作基板と量産基板の違いとは?
混同されやすいポイント
試作基板と量産基板は、回路や基板形状が同じであることも多いため、
「同じものを作っている」と捉えられがちです。
しかし実際には、目的と重視するポイントが異なります。
「試作=完成」ではない理由
試作基板は、設計内容が正しいかどうかを確認するためのものです。
- 回路が意図どおり動作するか
- 部品配置や配線に無理がないか
- 修正すべき点が残っていないか
これらを確認する工程であり、完成形ではありません。
試作基板とは何か
試作基板の目的
試作基板の目的は、
設計した回路・基板を実物で検証することです。
シミュレーションや設計レビューだけでは見つからない問題を洗い出します。
試作基板の特徴(数量・コスト・考え方)
- 小ロット(数枚〜十数枚程度)
- コストよりも確認作業を優先
- 設計変更が前提
- 納期重視になることが多い
試作では、「まず確認する」ことが最優先になります。
試作基板で確認すべきこと
- 基本動作の確認
- 部品の向き・極性
- パターン・配線の妥当性
- 実装・修正のしやすさ
ここでの確認不足は、後工程に影響します。
量産基板とは何か
量産基板の目的
量産基板は、
製品として安定して供給するための基板です。
動作だけでなく、品質のばらつきやコストも考慮します。
量産基板の特徴(品質・コスト・再現性)
- 大量生産(数百〜数万枚)
- コスト最適化が重要
- 製造・検査工程の標準化
- 不良率(歩留まり)を意識した設計
設計の再現性が強く求められます。
量産で重視されるポイント
- 安定した動作マージン
- 製造・実装のしやすさ
- 検査工程への配慮
- 仕様の明確さ
設計内容が、製造現場に正確に伝わることが重要です。
試作基板から量産基板までの基本的な流れ
試作基板の設計・製造・評価
- 回路設計・基板設計
- 試作基板の製造
- 実装・評価
- 問題点の洗い出し
不具合があれば、設計を修正します。
設計修正と設計凍結
試作結果を反映し、設計を修正します。
問題が解消された段階で、設計を確定(設計凍結)します。
量産基板の発注・製造・検査
- 製造仕様の確定
- 発注書・仕様書の作成
- 製造・実装
- 各種検査
量産では、事前準備の完成度が品質に直結します。
試作基板と量産基板で変わるチェックポイント
設計面での違い
- 試作:動作確認が主目的
- 量産:安定性・再現性を重視
製造・実装面での違い
- 試作:手作業での実装が多い
- 量産:自動実装を前提
部品配置やフットプリント設計の考え方が変わります。
検査方法の違い
- 試作:目視や簡易確認
- 量産:自動検査・工程検査
検査を想定した設計が必要になります。
試作基板から量産基板でよくある失敗例
失敗例① 基板仕様を量産で変更してしまう
試作時と量産時で、材料や板厚を変更し問題が発生するケースです。
失敗例② 試作は手実装、量産は自動実装だった
実装方法の違いが、不良につながることがあります。
失敗例③ 動作マージンが小さいまま量産に進んだ
環境差や部品ばらつきで不具合が発生します。
失敗例④ 検査方法を考慮せずに量産した
後から検査工程を追加できず、コスト増になる場合があります。
失敗例⑤ 試作段階で完成と判断してしまった
試作は確認工程であり、最終形ではありません。
失敗例⑥ 表面処理の指示ミス(無鉛/有鉛はんだレベラー)
本来は無鉛はんだレベラー指定だったにもかかわらず、
有鉛はんだレベラーで製造してしまったケースです。
- 発注書への記載漏れ
- 「HASL」とだけ指定
- 製造業者の標準仕様に任せた
表面処理は重要な仕様項目です。
ガーバーデータだけでなく、発注書や仕様書にも明記する必要があります。
まとめ
- 試作基板は設計確認のための工程
- 量産基板は安定供給を目的とした工程
- 両者は目的・考え方・確認ポイントが異なる
- 仕様の指示ミスは量産トラブルにつながりやすい
試作から量産への移行は、
設計を完成させるための重要なプロセスです。
付録:試作基板から量産基板へ進む前のチェックリスト
以下は、試作完了後〜量産発注前に確認しておきたい項目です。
すべてを一度に完璧に満たす必要はありませんが、
「確認したかどうか」だけでもチェックすることで、トラブルを減らせます。
① 設計・回路面のチェック
- □ 試作基板で想定どおりの動作を確認できている
- □ 温度・電圧など、最低限の動作マージンを確認した
- □ 部品の型番・代替品の可否を整理している
- □ 回路変更点がすべて設計データに反映されている
② 部品配置・実装面のチェック
- □ 自動実装を前提とした部品間隔になっている
- □ 極性・向きが分かりにくい部品にシルク表示がある
- □ 実装機で対応できない特殊部品がない
- □ 手修正が前提の配置になっていない
③ 基板仕様のチェック
- □ 板厚・層数・材料が明確に決まっている
- □ 試作と量産で基板仕様を変えていない(または把握している)
- □ 外形寸法・公差を確認した
- □ 面付け条件を確認した
④ 表面処理・製造条件のチェック
- □ 表面処理を具体的に指定している
- 例:無鉛はんだレベラー/有鉛はんだレベラー/ENIG
- □ 「HASL」など曖昧な表記になっていない
- □ 過去実績がある仕様かどうか確認した
⑤ 検査・評価のチェック
- □ 量産時の検査方法を想定している
- □ テストポイントが確保されている
- □ 検査できない信号・回路がない
- □ 試作時と量産時で検査レベルの違いを理解している
⑥ 発注・指示書まわりのチェック
- □ ガーバーデータと発注書の内容が一致している
- □ 仕様(表面処理・板厚など)を発注書に明記している
- □ 「前回同様」などの曖昧な指示をしていない
- □ 製造業者からの確認事項にすべて回答している
チェックリストの使い方(補足)
- すべて「○」である必要はありません
- 「未確認」が残っていないかを重視します
- 試作のたびにこのチェックリストを使うと、
量産移行時の見落としを減らせます

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