ナフサ価格が上昇すると、プリント基板(PCB)の価格にも影響するのでしょうか。
結論からいうと、ナフサはプリント基板そのものの直接材料ではありません。
ただし、ナフサは石油化学製品の上流に位置する原料の一つです。ナフサを分解するとエチレンやプロピレン、ベンゼンなどの基礎化学品がつくられ、そこからさまざまな石化製品や樹脂などが生産されます。
そのため、ナフサ価格の変動が石油化学関連のコストに影響し、その影響がプリント基板に使用される樹脂や銅張積層板(CCL)などの材料コストへ波及する可能性があります。
一方、PCBの価格はナフサだけで決まるものではありません。銅箔、ガラスクロス、樹脂、エネルギー、物流、為替、需給など、複数の要因が関係します。
この記事では、「ナフサ→石油化学製品→樹脂・材料→CCL→PCB」という流れを中心に、ナフサ価格とプリント基板価格の関係を整理します。
ナフサとは?
ナフサは、原油を精製してつくられる石油製品の一つです。
石油化学では、ナフサを分解することでエチレン、プロピレン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの基礎化学品がつくられます。
経済産業省も、ナフサをエチレンなどの基礎化学品に分解し、その後の中間製品を経てプラスチック製品などが生産される石油化学のサプライチェーンを示しています。
イメージすると、次のような流れです。
原油
↓
ナフサ
↓
エチレン・プロピレン・ベンゼンなど
↓
石化誘導品・樹脂など
↓
さまざまな工業製品
ここで重要なのは、ナフサがそのままプリント基板の材料になるわけではないという点です。
なぜナフサ価格がPCBに影響する可能性があるのか?
ナフサとPCBの関係を見るときは、直接的な関係ではなく、石油化学産業を経由した間接的な関係として考える必要があります。
経済産業省の資料でも、ナフサ分解からエチレン、プロピレン、ベンゼンなどの石油化学基礎製品が生産され、その下流に合成樹脂などの石化誘導品が位置づけられています。
そのため、概念的には次のように整理できます。
ナフサ価格
↓
石油化学基礎製品・誘導品のコスト
↓
樹脂などの材料コスト
↓
CCLなどの材料コスト
↓
プリント基板の製造コスト
ただし、これはあくまでコストが波及する可能性を示した流れです。
「ナフサ価格が上がったからPCB価格も同じ割合で上がる」という単純な関係ではありません。
ナフサとエポキシ樹脂の関係
プリント基板では、エポキシ樹脂を使用した銅張積層板(CCL)が広く使われています。
例えば、ガラス布基材エポキシ樹脂銅張積層板は、ガラス布にエポキシ樹脂を含浸させ、銅箔と積層・接着した材料です。
ここで注意したいのが、「ナフサ=エポキシ樹脂の直接原料」と単純化しないことです。
代表的なビスフェノールA型エポキシ樹脂は、ビスフェノールAとエピクロロヒドリンの縮合反応によって合成されます。
一方、ナフサはエチレン、プロピレン、ベンゼンなどの石油化学基礎製品を生み出す上流原料です。
したがって、
ナフサ
↓
石油化学基礎製品・各種化学品
↓
石化関連材料
↓
樹脂など
↓
CCL
↓
PCB
という間接的なサプライチェーンの関係として理解するのが適切です。
CCLとは?
CCLは「Copper Clad Laminate」の略で、日本語では銅張積層板と呼ばれます。
プリント基板を製造する前段階の重要な材料です。
代表的なガラス布基材エポキシ樹脂銅張積層板では、
- ガラス布
- エポキシ樹脂
- 銅箔
などを組み合わせて積層板を形成します。
プリント基板の材料について詳しく知りたい場合は、こちらの記事も参考になります。
関連記事:プリント基板の材質とは?FR-4・種類・特徴・選び方を実務視点で解説
CCLからプリント基板が製造されるため、CCLの材料コストはPCBの製造コストを考えるうえで重要な要素になります。
銅価格もPCB価格に大きく関係する
ナフサだけを見てPCB価格を考えるのは適切ではありません。
その理由の一つが銅箔です。
CCLには銅箔が使用されるため、銅の価格変動は材料コストを考える際の重要な要素になります。
つまり、PCBの価格変動を考える場合には、
ナフサ・石油化学関連コスト
だけでなく、
銅価格
も別の要因として確認する必要があります。
関連記事:
銅価格がプリント基板(PCB)に与える影響とは?
PCBのどの材料がナフサと関係するのか?
PCBにはさまざまな材料が使われています。
ナフサとの関係を考える場合は、次のように整理すると分かりやすくなります。
| 材料・要素 | ナフサとの関係 | PCBへの影響 |
|---|---|---|
| エポキシ樹脂 | 石油化学産業との間接的な関係 | 材料コストに影響する可能性 |
| 銅箔 | ナフサとは別の主要材料 | 銅価格の影響を受ける |
| ガラスクロス | ナフサとの直接的な関係は限定的 | 供給・エネルギー・需給などが影響 |
| プリプレグ | 樹脂・基材を使用 | 材料コストの影響を受ける |
| CCL | 樹脂・基材・銅箔などで構成 | 複数の材料価格が影響 |
| PCB | CCLを含む複数工程で製造 | 材料・加工・物流・需給などが影響 |
この表からも分かるように、ナフサだけでPCB価格を説明することはできません。
ナフサ価格からPCB価格へ影響する流れ
ナフサ価格の変動がPCB関連コストに影響すると考える場合、次のような流れになります。
1.原油価格などが変動する
ナフサは原油を精製してつくられるため、原油市場などの動向がナフサ価格に関係します。
2.ナフサ価格が石油化学産業に影響する
ナフサは石油化学の重要な原料の一つです。
ナフサを分解することで、エチレン、プロピレン、ベンゼンなどの基礎化学品が生産されます。
3.石化製品・樹脂などのコストに波及する可能性がある
基礎化学品からさまざまな石化誘導品が生産されます。
そのため、上流の原料価格の変化が、下流の材料コストに波及する場合があります。
ただし、製品ごとに原料構成や価格決定の仕組みが異なるため、必ず同じ割合で転嫁されるわけではありません。
4.CCLの材料コストに影響する可能性がある
プリント基板では、エポキシ樹脂などを使用したCCLが使われます。
CCLの材料コストが変化すれば、プリント基板の製造コストにも影響する可能性があります。
5.PCBメーカーの製造コストに影響する
PCBの価格には材料だけでなく、
- 製造設備
- 電力などのエネルギー
- 人件費
- 物流費
- 為替
- 生産量
- 需給
なども関係します。
6.最終的なPCB価格に反映される場合がある
材料費や製造コストの変化が販売価格に反映される場合があります。
ただし、ナフサ価格の変動がそのままPCB価格に反映されるわけではありません。
PCB価格はナフサだけで決まらない
PCBの価格を考えるときは、複数のコスト要因を確認することが重要です。
特に、
- 銅箔
- 樹脂
- ガラスクロス
- プリプレグ
- 電力などのエネルギー
- 人件費
- 物流費
- 為替
- 生産設備
- PCBの需給
などが関係します。
そのため、
「ナフサ価格が上昇した=PCB価格も上昇する」
とは言い切れません。
ナフサはあくまで、PCBを取り巻くサプライチェーンの上流にある要素の一つとして見る必要があります。
ガラスクロスとPCB価格の関係
PCB材料について考える際には、ガラスクロスも重要です。
ガラス布基材エポキシ樹脂銅張積層板では、ガラス布にエポキシ樹脂を含浸させ、銅箔と積層して使用します。
つまり、ガラスクロスはCCLを構成する基材の一つです。
ただし、ガラスクロスの価格や供給状況をナフサ価格だけで説明することはできません。
ガラス繊維の生産事情、需要、エネルギーコスト、物流など、別の要因も考える必要があります。
関連記事:
AIサーバー向けPCBとの関係
近年はAIサーバーなどの需要拡大によって、高多層基板や高性能基板への関心も高まっています。
こうした分野では、単純な材料価格だけでなく、基板の仕様や製造難易度、需要と供給のバランスなども重要になります。
そのため、
AI需要が高い
→ PCB価格が上がる
という単純な関係でもありません。
AIサーバー向け基板については、こちらの記事で詳しく解説しています。
関連記事:多層プリント基板の構造とAIサーバー需要
ナフサ価格の影響を受けやすいPCBとは?
「ナフサ価格の影響を受けやすいPCB」を考える場合、PCBそのものの種類だけで判断するのは難しいでしょう。
重要なのは、どのようなCCLや樹脂材料を使用しているかです。
例えば、樹脂材料の使用量や材料構成が異なれば、原材料価格の変動が製造コストに与える影響も変わります。
さらに、銅箔価格やガラスクロス、加工費など別のコスト要因もあるため、PCBの価格変動を一つの材料だけで説明することはできません。
PCB価格を見るときに確認したいポイント
PCB価格の変動を調べる場合は、ナフサ価格だけを見るのではなく、次の項目を確認すると状況を整理しやすくなります。
1.ナフサ価格
石油化学産業の上流にある原料価格です。
2.樹脂関連材料
CCLなどに使用される樹脂材料の価格動向を確認します。
3.銅価格
銅箔に関係するため、PCB材料費を見るうえで重要です。
4.ガラスクロス
CCLの基材として使用されるため、供給状況や価格動向も確認します。
5.PCBの需給
AIサーバー、通信機器、自動車、産業機器などの需要によって、基板の需給環境が変化する可能性があります。
6.為替・物流・エネルギー
材料を輸入する場合や海外で生産する場合には、為替や物流費もコストに影響します。
PCB価格が上昇する理由は一つではない
プリント基板の価格上昇を分析するときに重要なのは、一つの原材料だけで原因を決めつけないことです。
例えば、
ナフサ価格の変動
+樹脂関連材料のコスト
+銅価格
+ガラスクロス
+エネルギー費
+物流費
+為替
+需給
という複数の要素を総合的に見る必要があります。
そのため、「ナフサが上がったからPCBが上がった」と断定するより、
ナフサなど上流原料の価格変動が石油化学関連材料のコストに波及し、その一部がCCLなどを通じてPCBのコストに影響する可能性がある
と捉えるほうが実態に近いでしょう。
PCB価格が上昇するその他の要因については、こちらの記事も参考になります。
関連記事:なぜプリント基板(PCB)の値段は上がっているのか?AI需要と材料高騰の影響を解説
ナフサ価格とPCB価格の関係を理解する5つのポイント
最後に、この記事のポイントを整理します。
1.ナフサはPCBの直接材料ではない
ナフサは原油を精製してつくられる石油製品で、石油化学の上流に位置します。
2.ナフサは石油化学製品の原料になる
ナフサからエチレン、プロピレン、ベンゼンなどの基礎化学品がつくられます。
3.PCBでは樹脂を使用したCCLが使われる
代表的なガラス布基材エポキシ樹脂銅張積層板は、ガラス布、エポキシ樹脂、銅箔を組み合わせた材料です。
4.ナフサ価格の影響は間接的に考える
ナフサ価格の変動が石油化学関連材料のコストに影響し、その影響がCCLなどに波及する可能性があります。
ただし、エポキシ樹脂の価格がナフサ価格だけで決まるわけではありません。
5.PCB価格は複数の要因で決まる
銅箔、樹脂、ガラスクロス、エネルギー、物流、為替、需給などを総合的に見る必要があります。
まとめ
ナフサとプリント基板(PCB)の関係は、直接的な材料関係ではなく、石油化学産業を経由した間接的な関係として理解することが重要です。
基本的な流れは、
ナフサ
↓
石油化学基礎製品
↓
石化誘導品・樹脂など
↓
CCL
↓
プリント基板
と整理できます。
ただし、PCB価格はナフサだけで決まるものではありません。
銅箔、樹脂、ガラスクロス、エネルギー、物流、為替、需給など複数の要因が組み合わさって決まるため、ナフサ価格の変動だけからPCB価格を判断することはできません。
PCBの価格動向を調べる場合は、ナフサを「PCB価格を決める直接要因」ではなく、石油化学サプライチェーンの上流にあるコスト要因の一つとして見ると、関係を整理しやすくなります。


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