2026年、AIデータセンター向けのCCL(銅張積層板)市場の拡大を背景に、先端・高機能ガラスクロスの需給逼迫が注目されています。
ただし、ここで注意したいのが、すべてのガラスクロスが一律に不足しているという話ではないことです。
特に注目されているのは、AIサーバーや高速通信機器など、高性能なプリント基板に使われるガラスクロスです。
AIサーバーでは大量のデータを高速に処理・通信する必要があります。そのため、プリント基板にも低伝送損失や高い寸法安定性など、より高度な性能が求められます。
その結果、高性能CCLの需要が増え、その材料となる先端・高機能ガラスクロスにも需要が集中しています。
この記事では、ガラスクロスの役割からAIサーバーとの関係、先端ガラスクロスの需給逼迫が起きる背景、CCL・PCBへの影響、今後の供給を左右する要因まで整理します。
ガラスクロスとは?
ガラスクロスとは、ガラス繊維を糸状にして織ったシート状の材料です。
ガラス繊維は、電気絶縁性、耐熱性、寸法安定性などの特性を持つため、電子材料の重要な部材として利用されています。
プリント基板では、エポキシ樹脂などと組み合わせて絶縁基材を構成します。
特にFR-4などの基板材料では、ガラスクロスが基材の機械的強度や寸法安定性を支える役割を担います。
ただし、ガラスクロスにはさまざまな種類があり、基板に求められる性能によって選択されます。
CCLとガラスクロスの関係
ガラスクロス不足を理解するには、CCLとの関係を押さえておく必要があります。
CCL(Copper Clad Laminate:銅張積層板)は、プリント基板の材料となる積層板です。
一般的な構造では、ガラスクロスに樹脂を含浸させた絶縁層と銅箔を組み合わせています。
つまり、
ガラスクロス
↓
CCL
↓
プリント基板(PCB)
という関係があります。
そのため、特定のガラスクロスの供給が制約されれば、そのグレードを使用するCCLの生産や調達に影響する可能性があります。
ガラスクロス不足はなぜ起きている?
現在の問題を理解するうえで重要なのは、単純に「ガラスクロスが足りない」と考えないことです。
ポイントは、AI・高速通信などの成長分野で、高性能基板向けの材料需要が強まっていることです。
AIサーバー需要が高性能PCBを押し上げている
AIサーバーでは、GPUなどの高性能半導体を搭載し、大量のデータを高速に処理・通信します。
そのため、サーバー内部の基板にも高速伝送、高密度実装、多層化などへの対応が求められます。
こうした用途では、一般的な基板材料だけでなく、伝送損失や熱膨張などを考慮した高性能材料が重要になります。
日東紡は、AI半導体や通信ASIC、高性能CPU向けのパッケージ基板でTガラスを、高速通信向けではNEガラスを展開しています。
同社はAIサーバーやネットワーク機器などを電子材料用ガラスクロスの用途として挙げています。
流れを整理すると、
AI・データセンター需要の拡大
↓
高速・大容量通信への要求増加
↓
高性能PCB需要の増加
↓
高性能CCL需要の増加
↓
先端・高機能ガラスクロスへの需要増加
となります。
「AIだからガラスクロスが必要」という単純な話ではありません。
AI時代に必要な高性能基板を作るため、その材料として高機能ガラスクロスの重要性が高まっていると考えると分かりやすいでしょう。
先端ガラスクロスの需給が注目される理由
AGCは2026年6月の半導体関連説明会で、AIデータセンター向け用途がハイエンドCCL市場を牽引していることを説明しています。
同時に、同社は「先端ガラスクロス需給逼迫問題」に言及しています。
つまり現在の問題は、単純なガラスクロス全般の不足というより、高性能なCCLに必要となる先端ガラスクロスの需給が厳しくなっていることが重要です。
不足が注目されているのはどのガラスクロス?
「ガラスクロス不足」という言葉だけでは、何が不足しているのか分かりません。
現在特に注目されているのは、高速通信や高性能パッケージなどに対応する高機能ガラスクロスです。
代表的なものとして、
- 低誘電ガラス
- 低熱膨張ガラス
- 極薄ガラスクロス
などがあります。
それぞれ求められる性能が異なります。
低誘電ガラスクロス(NEガラス)
高速通信では、信号をできるだけ損失なく伝送することが重要です。
そのため、低誘電率や低誘電正接といった特性を持つ材料が重要になります。
日東紡の公開データでは、1GHzにおける誘電率はEガラス6.8に対してNEガラス4.8、誘電正接はEガラス0.0035に対してNEガラス0.0015とされています。
なお、これらは同社が公開している実測値の一例であり、規格値ではありません。
NEガラスは、高速通信に対応するプリント基板材料として重要な役割を担っています。
低CTEガラスクロス(Tガラス)
Tガラスは、低CTE(熱膨張係数)と高い引張弾性率を特徴とする高機能ガラスです。
日東紡の公開データでは、熱膨張係数はEガラスの5.6×10^-6/℃に対してTガラスが2.8×10^-6/℃、引張弾性率はEガラス75GPaに対してTガラス86GPaとされています。
こちらも同社が公開しているデータの一例です。
温度変化による寸法変化を抑える必要がある高性能基板や半導体パッケージでは、低CTEなどの特性が重要になります。
極薄ガラスクロス
高密度実装や基板の薄型化が進むと、より薄い材料が求められます。
日東紡は、厚さ0.013mmの極薄ガラスクロスを製品例として掲載しています。
同社は極薄ガラスクロスについて、高密度実装や基板の軽薄短小化への対応に加え、レーザー・ドリル加工性、寸法安定性、表面平滑性などを特徴として挙げています。
つまり、ガラスクロス市場では単純な「量」だけでなく、どの性能のガラスクロスが必要なのかを見ることが重要です。
なぜ高機能ガラスクロスの代替が簡単ではないのか?
高機能ガラスクロスは、それぞれ異なる性能を持っています。
例えば、NEガラスは低誘電特性、Tガラスは低CTEや高い弾性特性が特徴です。
そのため、あるグレードの供給が制約された場合でも、別の一般的なガラスクロスに単純に置き換えれば済むとは限りません。
材料を変更する場合は、伝送損失、熱膨張、寸法安定性、加工性など、基板に求められる性能を満たせるか確認する必要があります。
AGCが2026年の資料で、低誘電損失樹脂によって、ガラスクロスのグレードを下げながら要求性能を実現する技術を紹介していることからも、ガラスクロスのグレードと樹脂を含む基板材料全体の設計が関係していることが分かります。
ガラスクロス不足がCCL・PCBに与える影響
では、先端ガラスクロスの需給が厳しくなると、PCBにはどのような影響が出るのでしょうか。
CCLの供給に影響する可能性がある
ガラスクロスはCCLを構成する材料のひとつです。
そのため、特定グレードのガラスクロスの供給が制約されれば、そのグレードを使うCCLの生産や調達に影響する可能性があります。
特に高性能基板では、必要な材料の仕様が限定される場合があるため、代替材料への切り替えが容易とは限りません。
PCB価格の上昇要因のひとつになる可能性
ガラスクロスの価格上昇が、そのままPCB価格に反映されるわけではありません。
PCB価格には、
- 銅箔
- 樹脂
- ガラスクロス
- 電力
- 人件費
- 物流費
- 為替
- PCBの仕様
- 市場の需給
など、複数の要因が関係します。
そのため、
「ガラスクロス不足=PCB価格が必ず上がる」
とは言えません。
PCB価格全体の上昇要因については、PCB価格が上昇する理由もあわせて確認すると、材料コスト全体を把握できます。
銅価格もPCBコストに影響する
PCBではガラスクロスだけでなく、銅箔も重要な材料です。
銅価格が上昇すれば、銅箔を使用するPCBの材料コストにも影響する可能性があります。
ガラスクロスと銅という2つの材料を分けて考えることで、PCB価格が変動する仕組みをより正確に理解できます。
詳しくは、銅価格がプリント基板に与える影響で解説しています。
ナフサ価格も樹脂材料を通じて影響する
PCB材料のコストを見る場合、ガラスクロスだけでなく樹脂材料にも目を向ける必要があります。
エポキシ樹脂などの石油化学由来材料は、原油・ナフサなどの価格変動の影響を受ける場合があります。
そのため、
原油価格
↓
ナフサ価格
↓
樹脂材料価格
↓
CCL・PCBの材料コスト
という別のコスト経路も存在します。
ナフサ価格とPCB材料の関係については、ナフサ価格とPCBへの影響で詳しく解説しています。
PCBの納期に影響する可能性もある
材料の供給が制約されれば、CCLやPCBの納期に影響する可能性があります。
ただし、ガラスクロスの需給逼迫だけでPCBの納期が決まるわけではありません。
CCL、銅箔、樹脂、製造能力、物流など、複数の工程が関係します。
そのため、現時点では、
「ガラスクロス不足によってすべてのPCBの納期が長期化している」
と考えるのではなく、
「特定の高性能材料を使用する製品では、材料確保が納期リスクのひとつになる可能性がある」
と捉えるのが適切です。
ガラスクロス不足はいつまで続く?
先端ガラスクロスの需給がいつ完全に解消するのかを、現時点で一律に断定することはできません。
今後の需給を左右するのは、主に次の要素です。
- AIサーバー・データセンターへの投資
- 高速通信の高速化
- 高性能PCB・CCLの需要
- ガラスクロスメーカーの生産能力
- 新しい材料の開発
- ガラスクロスの使用量を抑える材料技術
メーカーの増産だけが解決策ではない
今後のポイントは、単純な増産だけではありません。
AGCは2026年6月の説明会で、低誘電損失樹脂を使うことで、ガラスクロスのグレードを下げながら必要な性能を実現するCCLを紹介しています。
つまり、より高価・希少な先端ガラスクロスの使用量を抑えることで、供給制約を緩和する方向です。
さらにAGCは、ガラスクロスを使わないRCC(Resin Coated Copper)についても説明しています。
RCCは、ガラスクロスを使わないことで薄型化や平滑性向上、多層化などのメリットが期待される材料です。
このように今後は、
ガラスクロスの増産
だけでなく、
材料設計の変更や代替技術
も需給を左右する可能性があります。
PCB調達で確認しておきたいポイント
ガラスクロス不足が気になる場合、PCBを調達する企業は「ガラスクロスが不足しているか」だけを確認するのでは不十分です。
使用しているCCLのメーカーとグレード
どのCCLを使っているのかを確認します。
特定メーカー・特定グレードへの依存度が高い場合、材料変更の自由度が低くなる可能性があります。
ガラスクロスの仕様
一般的なガラスクロスなのか、低誘電・低CTEなどの高機能材料なのかを確認します。
高速通信や高性能パッケージ用途では、材料仕様そのものが基板性能に関係するためです。
代替材料に変更できるか
材料を変更できる場合でも、単純に価格だけで判断するのは適切ではありません。
伝送損失、熱膨張、寸法安定性、加工性など、設計要求を満たせるか確認する必要があります。
CCLとPCBの納期
ガラスクロス単体だけでなく、CCLメーカーとPCBメーカーの納期も確認します。
材料供給が改善していても、別の工程にボトルネックがあれば最終製品の納期は短縮されません。
ガラスクロス不足に関するFAQ
ガラスクロスとは何ですか?
ガラス繊維を織ったシート状の材料です。
プリント基板では、樹脂と組み合わせて絶縁基材を構成する材料として使用されています。
なぜAIサーバーでガラスクロスの需要が増えるのですか?
AIサーバーでは高速・大容量のデータ処理や通信が必要になります。
そのため高性能なPCBやCCLの需要が増え、そこで使われる高機能ガラスクロスへの需要も強まります。
ガラスクロスはすべて不足していますか?
「すべてのガラスクロスが不足している」と一括りにするのは適切ではありません。
現在特に注目されているのは、AIサーバーや高速通信などに使われる先端・高機能ガラスクロスの需給です。
ガラスクロス不足でPCB価格は上がりますか?
ガラスクロスの需給はPCBコストに影響する可能性がありますが、PCB価格はガラスクロスだけで決まりません。
銅箔、樹脂、エネルギー、人件費、物流費、為替、製品仕様など、複数の要因を考慮する必要があります。
ガラスクロス不足はいつ解消しますか?
特定のグレードについて、いつ完全に需給が解消するかを一律に予測することは困難です。
AI・データセンター需要の動向に加え、メーカーの増産、新材料、代替技術の普及などを合わせて見る必要があります。
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PCB材料の価格や供給環境をさらに詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。
まとめ|ガラスクロス不足は「高機能品の需給」がポイント
現在のガラスクロス問題を理解するうえで重要なのは、「ガラスクロス全体が不足している」と一括りにしないことです。
2026年のAGCの説明では、AIデータセンター向け用途がハイエンドCCL市場を牽引する一方、先端ガラスクロスの需給逼迫が課題になっています。
AIサーバーやデータセンターでは、高速・大容量のデータ処理や通信が必要になります。
その結果、
AI・データセンター需要
↓
高性能PCB需要
↓
高性能CCL需要
↓
先端・高機能ガラスクロス需要
という流れで、特定の材料への需要が強まっています。
特に低誘電ガラスや低熱膨張ガラス、極薄ガラスクロスなどは、高速通信や高性能パッケージで重要な役割を担っています。
一方で、PCBの価格や供給状況はガラスクロスだけで決まるものではありません。
銅箔、樹脂、エネルギー、物流、為替など、複数の材料・コスト要因を合わせて見る必要があります。
そのため今後のPCB業界では、
どのグレードのガラスクロスなのか
どのCCLに使われているのか
代替材料はあるのか
安定して調達できるのか
まで確認することが重要になります。
AI時代のPCB材料市場では、「量」だけでなく、必要な性能を持つ材料を安定して確保できるかが、これまで以上に重要なテーマになっています。


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