SI解析を行う際、プリント基板(PCB)設計CADから ODB++ を出力して利用している、という方も多いのではないでしょうか。
実務では、製造用データとしては従来どおりガーバーデータを使用しつつ、解析用途として限定的にODB++を活用しているケースも少なくありません。
日本国内では現在もガーバーデータが主流ですが、世界的に見ると、PCB設計から製造・実装までの工程全体で、ODB++を前提としたデータ連携が進んでいます。
従来のように複数のGerberファイルやドリルデータ、部品表を個別に管理する方法では、
- ファイルの抜け漏れ
- 解釈の違い
- 手戻りの発生
といった問題が起こりやすいのも事実です。
こうした課題を背景に登場したのが ODB++ という統合フォーマットです。
本記事では、
- ODB++の基本的な仕組み
- グローバルでの採用状況
- Gerberとの考え方の違い
- 実務で感じるメリットと注意点
を、初心者にも分かるように整理して解説します。
ODB++とは?
ODB++は、プリント基板(PCB)設計に必要な情報をひとまとめに管理できるファイル形式です。
1992年にイスラエルのValor社によって開発され、現在は Siemens(Siemens EDA)が提供しています。
Gerber形式との基本的な違い
Gerber形式では、以下のように情報が分割されます。
- 銅配線:Gerber
- 穴あけ:Drill
- 部品情報:別ファイル
- ネット情報:設計データ依存
一方、ODB++では、
- 配線パターン
- 層構成
- 部品配置
- ネットリスト
- 穴あけ情報
といった情報を1つのデータ構造に統合して管理します。
そのため、設計・製造・実装・解析の各工程で、同じ解釈のデータを共有しやすい点が大きな特徴です。
ODB++のグローバルな使用状況・採用動向
海外では高水準で普及していると言われている
海外のPCB製造現場では、製造用データとしてODB++を採用しているケースが非常に多いとされています。
業界動向としては、7〜8割程度の企業・現場で利用されていると言われることもあり、地域によっては事実上の標準フォーマットとして扱われています。
特に、
- 海外EMSとのデータ連携
- 多拠点製造
- 高信頼性が求められる分野
では、複数ファイルを前提とした運用よりも、ODB++のような統合フォーマットが好まれる傾向があります。
※ 実際の採用率は、地域・業種・企業規模によって差があります。
主流EDAツールでは標準、又はオプションでサポートされている
現在、主要なEDA/基板設計CADの多くが、ODB++の出力を標準、又はオプション機能としてサポートしています。
代表的なツールとしては、以下が挙げられます。
- Altium Designer
- Mentor Graphics(Siemens EDA)
- Cadence
- Zuken
これらのツールでは、Gerber出力と並んでODB++が選択できるケースが多く、
海外向け製造データではODB++が前提となっていることも珍しくありません。
高速・高密度基板を扱う大手メーカーで好まれやすい
ODB++は、
- 層構成
- ネットリスト
- 部品表(BOM)
- 部品配置情報
を1つのデータ構造に集約できるため、
高速・高密度な基板を扱う大手メーカーで採用されやすい傾向があります。
具体的には、
- 5G関連機器
- AI・HPC向け基板
- 自動車・車載電子機器
といった分野では、
設計意図を正確に製造側へ伝える必要性が高く、ODB++のメリットが活きやすいと言えます。
日本国内では移行途上だが、利用は確実に増えている
日本国内では、依然としてガーバーデータを中心に運用している現場も多く見られます。
特に、長年の運用実績がある現場ほど、既存フローを継続しているケースが少なくありません。
一方で、
- 海外製造拠点との連携
- 高密度・多層基板の増加
- CAM工程の自動化
といった背景から、ODB++の利用率は徐々に上昇しています。
分野や企業規模にもよりますが、
5割以上の現場で何らかの形でODB++が使われていると見る向きもあり、
10年以上の移行期間を経て、着実に普及が進んでいる段階と言えるでしょう。
ガーバーデータ(RS-274X)との考え方の違い
ガーバーデータは「線を描く」ためのデータ
ガーバー(RS-274X)は、
銅箔パターンや外形を線として表現するためのデータです。
- 配線パターン
- 基板外形
といった情報は記述できますが、
- 部品情報
- ネットリスト(接続情報)
- BOM
は、別ファイルとして受け渡す必要があります。
そのため実務では、
複数のファイルを組み合わせて「1枚の基板」として解釈する運用が前提になります。
ODB++は「基板そのものの情報」を渡す形式
ODB++は、
基板を構成する情報を意味づけされた状態でまとめて渡すことを目的としています。
その結果として、
- データ解釈のばらつきが起きにくい
- 自動処理・自動化と相性が良い
といった特徴があります。
実務では併用運用が現実的
現時点の多くの現場では、
- 製造:Gerber
- SI解析・レビュー・海外対応:ODB++
といった使い分けが行われています。
いきなり完全移行するのではなく、
限定的な用途からODB++を使い始める方法は、実務的にも無理のない進め方です。
ODB++の基本的な使い方
設計CADから出力する
対応する基板設計CADでは、出力形式としてODB++を選択できます。
部品情報やネットリストを正しく設定しておけば、一括でデータ化が可能です。
※ CADやライセンス構成によっては、ODB++出力がオプション機能の場合もあります。
専用ビューワで確認する
出力後は、専用ビューワを使って内容を確認します。
- 層ごとの配線
- 部品配置
- 穴あけ情報
を視覚的に確認できるため、製造前チェックやレビュー用途として有効です。
CAM・解析ツールに取り込む
確認後、そのままCAMシステムやSI解析ツールに取り込めます。
データ構造が整理されているため、自動処理との相性も比較的良好です。
実務で感じるODB++のメリット
作業時間を短縮しやすい
ファイル変換や個別確認の手間が減り、
設計から製造までの流れがスムーズになります。
情報の抜け漏れを防ぎやすい
データが一元化されているため、
ファイル不足や解釈ミスが起こりにくくなります。
最新の製造フローと親和性が高い
CAM自動化やデジタル連携が進む現場では、
ODB++のような統合フォーマットが活きる場面が増えています。
ODB++を使う際の注意点
- ファイルサイズが大きくなりやすい
- すべてのCADが完全対応しているわけではない
- 設計ミスがそのまま製造に反映される可能性がある
そのため、
出力後のビューワ確認と複数人レビューは欠かせません。
まとめ
ODB++は、PCB設計から製造、解析までをつなぐ統合データフォーマットです。
現状ではGerberが主流の現場も多いものの、
グローバルではODB++が事実上の標準となりつつあります。
まずはSI解析やレビュー用途など、
限定的な場面からODB++を活用することで、
無理なく導入効果を確認できます。
Gerberに慣れた設計者にとっても、
業務効率を見直すきっかけとなるフォーマットと言えるでしょう。


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