燃料費や食品、光熱費など、身の回りの多くのものが値上がりしていると感じている人は多いのではないでしょうか。
実は、電子機器に欠かせないプリント基板(PCB)も同様に価格上昇が続いています。
電子機器メーカーや購買担当者の間では、基板メーカーからの値上げ要請が珍しくなくなりました。では、なぜプリント基板の価格は上がっているのでしょうか。ここでは、その背景を材料価格と市場環境の両面から解説します。
基板メーカーが値上げを発表する背景
2021年以降、多くの基板メーカーが取引先に対して価格改定を打ち出しています。
最大の理由は、基板材料の価格高騰です。
プリント基板は主に次の3つの材料で構成されています。
-
銅箔
-
樹脂(主にエポキシ樹脂)
-
ガラスクロス
これらの材料はすべて国際市況の影響を受けやすく、近年は価格変動が大きくなっています。
プリント基板とは
プリント基板とは、電子部品を固定し電気的に接続するための基板です。銅で作られた回路パターンを絶縁材料の上に形成することで、電子機器の内部で電気信号を効率よく伝える役割を担います。スマートフォン、パソコン、自動車、産業機器など、ほぼすべての電子機器に使用されています。
プリント基板の主な材料
プリント基板は一見シンプルな構造に見えますが、実際には複数の材料を組み合わせて作られています。特に一般的なガラスエポキシ基板(FR-4)では、主に次の3つの材料が使われています。
銅箔(Copper Foil)
銅箔は、基板上の電気回路を形成する導体材料です。
基板の表面や内部に貼り付けられ、エッチング加工によって回路パターンが作られます。
銅は電気伝導性が高く加工もしやすいため、ほとんどのプリント基板で使用されています。
そのため、銅価格の上昇は基板コストに直接影響します。
近年は電気自動車(EV)や再生可能エネルギー設備の需要拡大によって、銅の需要が世界的に増加しており、価格変動が基板業界にも影響を与えています。
樹脂(エポキシ樹脂)
プリント基板では、絶縁材料としてエポキシ樹脂が広く使われています。
この樹脂はガラスクロスと組み合わせて積層され、基板のベースとなる絶縁層を形成します。
エポキシ樹脂は耐熱性や電気絶縁性に優れているため、電子機器の基板材料として非常に重要な役割を担っています。
ただし、エポキシ樹脂は石油化学製品であるため、原油価格や化学原料の供給状況の影響を受けやすいという特徴があります。近年は原料価格の上昇によってコストが高騰するケースも増えています。
ガラスクロス(Glass Cloth)
ガラスクロスは、ガラス繊維を織って作られたシート状の材料で、基板の強度や寸法安定性を高める役割を持っています。
このガラスクロスにエポキシ樹脂を含浸させた材料(プリプレグ)を積層することで、プリント基板の基材が作られます。
ガラスクロスは電子機器だけでなく半導体パッケージ基板などにも使用されるため、半導体市場の需要拡大に影響を受けることがあります。需要が急増した場合には供給が追いつかず、基板材料の価格上昇につながることもあります。
FR-4とは
FR-4とは、ガラスクロスにエポキシ樹脂を染み込ませて作られるプリント基板の代表的な材料です。電気を通さない絶縁性と高い耐熱性を持ち、スマートフォンやパソコン、産業機器など多くの電子機器の基板に広く使用されています。現在流通しているプリント基板の多くが、このFR-4をベースに製造されています。
なお、プリント基板にはFR-4のほか、放熱性を高めたアルミ基板や、高周波用途向けの特殊基板なども存在します。
プリント基板の価格推移(2020〜2025)
プリント基板の価格は、この数年で大きく変動しています。特に2020年以降は、世界的なサプライチェーンの混乱や電子機器需要の増加によって価格上昇が続きました。
2020年
新型コロナウイルスの影響により、世界経済は一時的に停滞しました。銅などの資源価格も一時下落し、基板材料の価格は短期的に落ち着きました。
2021年
テレワークの普及やデジタル機器需要の拡大により、半導体や電子部品の需要が急増しました。これに伴い、銅箔やガラスクロスなどの基板材料の供給が逼迫し、基板メーカーによる値上げが相次ぐようになりました。
2022年
材料価格の高騰が本格化し、基板価格は大きく上昇しました。特に銅価格やエポキシ樹脂などの化学材料が高騰し、基板メーカーがコストを吸収しきれない状況が続きました。
2023年〜2024年
半導体市場の調整局面もあり、一部の電子部品需要は落ち着きを見せました。しかし、EVやデータセンターなどの新たな需要が拡大し、基板市場は依然として高い需要を維持しています。
2025年現在
電子機器の高度化やAI関連機器の需要拡大により、高性能基板の需要は引き続き増加しています。材料価格は以前ほど急騰していないものの、基板価格はコロナ前より高い水準で推移しています。
プリント基板の世界市場と主要メーカー
プリント基板(PCB)の生産は、現在アジア地域を中心に行われています。特に中国・台湾が世界市場で大きなシェアを占めており、電子機器産業の拡大とともに生産能力を急速に伸ばしてきました。
現在、世界のプリント基板生産の多くは中国メーカーが担っているとされており、コスト競争力の高さを背景にシェアを拡大しています。また、台湾には高密度基板や半導体パッケージ基板などの分野で強いメーカーが多く、スマートフォンやデータセンター向け製品で存在感を持っています。
一方、日本の基板メーカーは数量では中国に及ばないものの、高信頼性や高精度が求められる分野で強みを持っています。自動車、産業機器、医療機器などの用途では、日本メーカーの高品質な基板が採用されるケースも多くあります。
プリント基板メーカーの世界ランキング
プリント基板(PCB)市場では、スマートフォンやデータセンター、自動車向け電子機器の需要拡大を背景に、大手メーカーによるグローバル競争が続いています。近年は中国や台湾のメーカーが生産規模を拡大し、世界市場で存在感を高めています。
代表的なプリント基板メーカーには次のような企業があります。
1. Zhen Ding Technology(臻鼎科技)
台湾に本社を置く世界最大級のPCBメーカーです。スマートフォン向け高密度基板(HDI)やFPCなどで強みを持ち、大手電子機器メーカー向けに大量生産を行っています。
2. Unimicron Technology(欣興電子)
台湾の大手PCBメーカーで、半導体パッケージ基板(ABF基板)分野で高いシェアを持っています。サーバーやデータセンター向け需要の拡大により成長しています。
3. TTM Technologies
アメリカの大手PCBメーカーで、航空宇宙、防衛、通信機器向けの高信頼性基板を多く手掛けています。高付加価値製品に強みがあります。
4. Shennan Circuits(深南電路)
中国を代表するPCBメーカーの一つで、通信機器やデータセンター向け基板の分野で急成長しています。
5. Ibiden(イビデン)
日本の大手電子部品メーカーで、半導体パッケージ基板分野で世界トップクラスの技術力を持っています。高性能CPU向け基板などで重要な役割を担っています。
このように、プリント基板市場では中国・台湾メーカーが生産量で大きなシェアを持つ一方、日本や米国メーカーは高付加価値分野で存在感を示しています。
プリント基板はなぜ値上がりしやすいのか
プリント基板の価格が上がりやすい理由は、材料費の影響を強く受けるためです。基板の主材料である銅箔、エポキシ樹脂、ガラスクロスは国際市況に連動して価格が変動します。さらに電子機器やEV、データセンター向け需要の増加により材料需給が逼迫すると、基板メーカーはコストを吸収しきれず価格改定が起こりやすくなります。
材料費が上昇する中で購入者はどう対応すべきか
基板価格の上昇局面では、購買側も適切な対応が求められます。単純に価格交渉を行うだけではなく、市場環境を踏まえた判断が重要になります。
① 値上げの妥当性を確認したうえで受け入れる
材料価格の上昇が明確な場合、無理な価格交渉はサプライヤーとの関係悪化につながる可能性があります。材料市況を把握したうえで、合理的な値上げであれば受け入れる判断も必要です。
② 納期や供給安定性を重視する
価格だけでなく、安定した供給を確保できるかも重要なポイントです。特にサプライチェーンが不安定な時期には、信頼できるメーカーとの関係構築が重要になります。
③ 市況下落時の価格見直し条件を明確にする
材料市況は常に変動します。そのため、価格改定を受け入れる場合でも、市況が下落した際の価格見直し条件を事前に取り決めておくことが望ましいでしょう。
FAQ (よくある質問)
Q. プリント基板の主な材料は何ですか?
一般的なプリント基板は、銅箔・エポキシ樹脂・ガラスクロスの3つの材料で構成されています。これらを組み合わせて作られるFR-4基板が最も広く使用されており、スマートフォンやパソコン、自動車など多くの電子機器に採用されています。
Q. プリント基板の価格は今後下がる可能性はありますか?
基板価格は材料価格や電子機器需要の影響を受けるため、市場状況によって変動します。銅などの資源価格が落ち着けば価格が下がる可能性もありますが、AI機器や電気自動車(EV)などの需要拡大により、高い水準が続く可能性もあります。
Q. プリント基板はどの国で多く生産されていますか?
現在、プリント基板の生産は中国と台湾が世界市場で大きなシェアを占めています。特に中国メーカーは生産量で世界トップクラスとなっており、台湾メーカーは高密度基板や半導体パッケージ基板などの分野で強みを持っています。
Q. FR-4とは何ですか?
FR-4とは、ガラスクロスにエポキシ樹脂を染み込ませて作られるプリント基板の代表的な基材です。高い絶縁性と耐熱性を持ち、スマートフォンやパソコンなど多くの電子機器の基板に使用されています。
まとめ
プリント基板の価格上昇は、単なるメーカーの値上げではなく、材料市況や電子機器市場の需要拡大など複数の要因が重なって起きています。
特に次の要素が大きく影響しています。
-
銅価格の上昇
-
エポキシ樹脂など化学材料の高騰
-
ガラスクロスの供給問題
-
電子機器・AI・EV需要の拡大
今後も電子機器市場は成長が続くと見られており、基板価格は市場環境の影響を受けながら変動していくと考えられます。そのため、購買側としては市況を理解しながら、価格・供給・技術動向を総合的に見て調達戦略を考えることが重要になるでしょう。


コメント