「この信号、そこまで高速じゃないから問題ないだろう」
そう判断して引いた配線が、試作基板の評価で思わぬ問題として指摘されることがあります。
例えば
- FPGA入力がときどき誤動作する
- インタフェースが不安定になる
- EMI試験で予想外のピークが出る
といった現象です。
原因を追っていくと、最終的にたどり着くのは
配線のインピーダンス不整合による信号反射
というケースが少なくありません。
そのときに問題として挙がるのが
- オーバーシュート
- アンダーシュート
- リンギング
といった信号品質(Signal Integrity)の現象です。
これらは別々のトラブルのように見えますが、実際には密接に関係した物理現象です。
本記事では
- リンギングとオーバーシュートの違い
- なぜ低速回路でも発生するのか
- それぞれの仕組みと関係
- 実務でよくある原因と対策
を整理して解説します。
リンギングとオーバーシュートの違い(結論)

まず最初に3つの現象を整理します。
| 現象 | 発生タイミング | 波形の特徴 | 本質 |
|---|---|---|---|
| オーバーシュート | 立ち上がり直後 | 目標電圧を一瞬超える | 反射やドライバ過渡応答 |
| アンダーシュート | 立ち下がり直後 | 0V未満へ一瞬沈む | 負方向の反射 |
| リンギング | エッジ後 | 上下に減衰振動 | 反射の往復による共振 |
ポイントは次の通りです。
オーバーシュート/アンダーシュート
→ 最初の瞬間的な電圧スパイク
リンギング
→ その後に続く振動
つまりリンギングは、反射が配線を往復することで発生する減衰振動です。
なぜ低速回路でも起きるのか
リンギングやオーバーシュートは「高速回路」で起きる問題と思われがちです。
しかし実際には、問題になるのはクロック周波数ではなく信号の立ち上がり時間です。
配線を伝送線路として扱う必要があるかどうかは、次の条件で判断できます。
配線長 > (立ち上がり時間 × 伝搬速度) / 2
FR-4基板では信号の伝搬速度はおよそ
約15cm/ns
です。
例えば立ち上がり時間が1nsなら、
配線長が
約7.5cm
を超えた時点で配線は伝送線路として振る舞います。
つまり
- 1MHzの信号でも
- 数cm〜10cm程度の配線でも
信号反射は十分に発生します。
なぜ10MHzでも数百MHz成分になるのか
「10MHz程度の信号なのに、なぜ高周波問題が起きるのか?」
ポイントは信号の周波数ではなく立ち上がり時間です。
デジタル信号は理想的な矩形波ではなく、有限の立ち上がり時間を持つアナログ波形です。
立ち上がり時間から含まれる高周波成分は次の式で見積もることができます。
f ≈ 0.35 / Tr
- f:含まれる高周波成分の目安
- Tr:立ち上がり時間
例えば
Tr = 1ns
の場合
f ≈ 350MHz
になります。
つまりクロックが10MHzであっても、波形には数百MHz帯の成分が含まれていることになります。
この高周波成分が配線長と同程度の波長になると、配線は単なる導線ではなく
伝送線路
として振る舞います。
その結果として
- オーバーシュート
- アンダーシュート
- リンギング
といった現象が発生します。
オーバーシュートとアンダーシュートの仕組み
信号反射の大きさは反射係数 Γで決まります。
Γ = (ZL − Z0) / (ZL + Z0)
- Z0:配線の特性インピーダンス
- ZL:負荷インピーダンス
インピーダンスが一致していれば
Γ = 0
となり、反射は発生しません。
しかし実際の回路では
- ドライバ
- 配線
- 受信入力
のインピーダンスが完全に一致することはほとんどありません。
この不整合によって信号が反射し、電圧が一時的に上振れ・下振れすることで
- オーバーシュート
- アンダーシュート
が発生します。
👉 オーバーシュートついて詳しく解説しています。
オーバーシュートついての記事へ
リンギングが発生する本当の理由
リンギングは、信号反射が配線を往復することで生じる振動です。
信号は配線上を
送信側 → 受信側 → 送信側 → 受信側 …
という形で往復します。
インピーダンス不整合があると、信号はその境界で反射します。
反射した信号は再び配線を戻り、さらに反射します。
この往復反射が減衰しながら続くことで、波形には振動が現れます。
振動周期はおおよそ
T ≈ 2 × 伝搬遅延時間
で決まります。
つまり信号は
- 配線の端まで進む
- 反射して戻る
という動きを繰り返しており、この往復時間がリンギング周期になります。
SI視点では「減衰振動系」
SI(Signal Integrity)の視点では、リンギングは単なる反射ではなく
配線インダクタンス + 負荷容量 + ドライバ抵抗
による
RLCの減衰振動
として理解されます。
反射がトリガーとなり、配線の寄生成分によって振動が発生します。
そのため
- 配線長
- 負荷容量
- ドライバインピーダンス
によってリンギングの大きさや減衰速度が変わります。
SI視点で見ると3つは同じ現象の表れ
リンギング、オーバーシュート、アンダーシュートは
別々のトラブルのように見えます。
しかしSIの視点では、これらは
同じ物理現象の異なる表れ
です。
根本原因は
インピーダンス不整合
です。
信号は配線上を電磁波として伝搬し、インピーダンスが変化する場所で反射します。
この反射によって
- 最初の電圧スパイク → オーバーシュート
- 負方向のスパイク → アンダーシュート
- 往復反射による振動 → リンギング
が現れます。
つまり3つの現象は
別の問題ではなく、同じ原因から生じる一連の現象
なのです。
実務でよくある原因
終端なしの長配線
FPGAやMCUから10cm以上の配線を終端なしで引くと、リンギングが発生する可能性が高くなります。
スタブ配線
信号配線の途中で分岐すると、分岐部分がスタブとなり共振の原因になります。
強すぎるドライバ
FPGAのI/Oでは
- Drive Strength
- Slew Rate
の設定が強すぎる場合があります。
エッジが速すぎると、オーバーシュートやリンギングが増大します。
実践的な対策
ソース終端(ダンピング抵抗)
ドライバ直後に直列抵抗を入れます。
目安:
R ≈ Z0 − ドライバ内部抵抗
受信側終端
受信側で特性インピーダンスに合わせた抵抗を配置します。
配線を短くする
最も確実でコストゼロの対策です。
ドライブ強度を下げる
Drive StrengthやSlew Rateを調整することで、不要な高周波成分を抑えることができます。
FAQ:リンギング・オーバーシュート・アンダーシュートに関するよくある質問
Q1. リンギングとオーバーシュートの一番の違いは何ですか?
オーバーシュートは最初の瞬間的な電圧の跳ね上がりです。
一方リンギングは、その後に続く減衰振動です。
オーバーシュートは信号の立ち上がり直後に発生し、
リンギングは信号反射が配線を往復することで振動として現れます。
Q2. オーバーシュートとアンダーシュートは何が違いますか?
オーバーシュートは
信号電圧が目標電圧より上に一瞬跳ね上がる現象
です。
アンダーシュートは
信号電圧が0Vより下に沈み込む現象
です。
どちらも原因はインピーダンス不整合による反射ですが、
電圧の方向が異なります。
Q3. 低速回路でもリンギングは発生しますか?
発生します。
リンギングは信号周波数ではなく、
信号の立ち上がり時間によって決まります。
例えば立ち上がり時間が1nsの信号では、
数百MHz帯の高周波成分が含まれます。
そのため、クロックが数MHz程度でも
配線長が長い場合はリンギングが発生することがあります。
Q4. オーバーシュートはどこまで許容されますか?
一般的には
定格電圧の±10%以内
が一つの目安とされています。
ただし最終的にはICのデータシートに記載されている
- Absolute Maximum Rating
- Recommended Operating Conditions
を確認する必要があります。
最大定格を超えると、デバイスの劣化や故障の原因になる可能性があります。
Q5. リンギングの主な原因は何ですか?
リンギングの主な原因は
インピーダンス不整合による信号反射
です。
例えば次のような条件で発生しやすくなります。
- 配線が長い
- 終端抵抗がない
- スタブ配線がある
- ドライバが強すぎる
Q6. リンギングを防ぐにはどうすればよいですか?
代表的な対策は次の通りです。
- ソース終端(ダンピング抵抗)
- 受信側終端
- 配線を短くする
- ドライブ強度を下げる
これらにより信号反射を抑え、リンギングを小さくできます。
Q7. リンギングは完全に無くす必要がありますか?
必ずしも完全にゼロにする必要はありません。
重要なのは
- ロジックレベルを誤認識しない
- デバイスの定格を超えない
- EMI問題を引き起こさない
範囲に収まっていることです。
まとめ
リンギングとオーバーシュートの違いは次の通りです。
オーバーシュート
→ 瞬間的な電圧超過
アンダーシュート
→ 負方向の電圧スパイク
リンギング
→ 反射の往復による減衰振動
そしてこれらの根本原因はほぼ共通しています。
インピーダンス不整合
この物理を理解すると、信号品質の問題を
「なんとなく波形が汚い」
ではなく
伝送線路の現象として説明できる
ようになります。
基板設計とSI解析の両方に関わるエンジニアにとって、
これらの現象の違いを理解しておくことは非常に重要です。


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