本ページは広告リンクやPRが含まれます

SIシミュレーションの準備が意外に大変

SI解析 SI解析
広告

本記事では、SI(シグナルインテグリティ)シミュレーションの準備が、予想以上に手間と時間を要するという実体験をもとに、そのプロセスや苦労について詳しく紹介しています。

筆者は普段、主に基板設計の業務を担当しており、日々CADソフトを使ってレイアウト作業や部品配置、配線の最適化に取り組んでいます。しかしながら、必要に応じてSIシミュレーションも行うことがあり、設計の補完的な工程として重要な役割を担っています。

とはいえ、SIシミュレーションの経験はそれほど多くなく、毎回の作業では調査や確認を重ねながら慎重に進めているのが現状です。慣れない工程の連続であり、その都度新たな気づきや反省点が生まれます。

実際にSIシミュレーションに取り組む前は、解析ソフトを起動して「解析ボタンをポンと押せば自動的に波形が表示される」といった、非常にシンプルな作業工程をイメージしていました。ところが、実際の作業に入ってみると、波形を得るまでにはさまざまな準備が必要であることを痛感しました。例えば、正確な基板構造データの収集、回路図からの信号抽出、必要な部品モデルの調達、動作周波数の確認など、どれも気を抜けない重要なプロセスです。

このように、SIシミュレーションは単にツールを使えば済むものではなく、設計意図や仕様を正しく理解し、準備段階で精度の高い情報を整えることが成功のカギになります。

SIシミュレーション前の下準備は意外と大変

以下は、SIシミュレーションを行う前に実施した準備の一例であり、実際にどのような工程を踏んでいるのかを具体的に示すものです。

基板の層構成の把握

SIシミュレーションで精度の高い解析結果を得るためには、使用するプリント基板の層構成情報をできる限り正確にシミュレーションツールへ入力する必要があります。単なるレイアウト情報だけでは不十分で、材料や加工に関する詳細情報が求められます。

まず最初に確認するのが、基板メーカーの特定です。製造元が明らかであれば、製造仕様書や材料リストなどから層構成に関する情報を直接入手することが可能です。情報が不十分な場合は、製造元に問い合わせて確認を取る必要があります。

筆者が使用しているSIシミュレーションソフトでは、以下のような詳細情報を入力することが求められます:

  • 各層の銅箔の厚み(部品面、半田面、内層など)
  • スルーホールやビアに対して施される半田めっきの厚み
  • 絶縁材(プリプレグやコア材など)の厚み
  • コア材それ自体の厚みや材質特性
  • 可能であれば、レジスト(ソルダーレジスト)の厚みおよび種類

特に注目すべきなのが、部品面および半田面における銅箔厚です。これらの層には、スルーホールを形成する際に実施される電解めっき処理によって追加の金属層が形成され、設計上の配線パターンよりも実際の厚みが増加することがあります。これにより、信号品質やインピーダンスに影響を及ぼすため、めっきによる追加厚みを正確に考慮する必要があります。

そのため、設計段階で指定される銅箔厚と、実製造後のトータルの厚みとを区別して管理し、シミュレーションモデルにもその差異を反映させることが非常に重要です。加えて、特定の材料を使用した場合の誘電率や損失係数なども、正確な伝送解析には大きく関与するため、必要に応じて追加情報を取得する努力も求められます。

また、製造ロットによるばらつきなども考慮し、設計時の想定とのズレを最小限に抑える工夫が必要です。このように、基板層構成の情報は単なる数字の入力に留まらず、設計品質全体に直結する非常に重要なファクターとなります。

シミュレーション対象ネットの選定

ネットとは、電子回路内において、どの部品のどのピンが他の部品のどのピンと接続されているかという情報を指します。ネットは、配線の論理的なグループを意味し、信号の流れを把握するうえで極めて重要な要素です。SIシミュレーションでは、このネットの構成を正確に把握し、対象信号を的確に選定することが解析の第一歩となります。

筆者がSIシミュレーションを始めた当初は、どのネットを対象とするべきかがわからず、毎回設計者や上司に確認しながら進めていました。特定の信号がどの程度の重要性を持つのか、どのようなタイミングで動作するのかといった知識も浅く、単に結線情報を見るだけでは判断がつきませんでした。しかし、解析の経験を積むにつれて、クロック信号や高速データラインなど、SIシミュレーションが必要となる代表的な信号の特徴が徐々に理解できるようになり、自力で候補を抽出できるようになってきました。

その後、対象となるネットを洗い出す工程では、回路図を詳細に読み込み、どの信号が高速で動作するか、またどのようなタイミング特性が求められているかを意識して確認するようにしています。単に接続ピンを見るだけでなく、回路の動作意図やトポロジー(スター配線やデイジーチェーンなど)も考慮に入れ、シミュレーションに適したネットを選定しています。

対象ネットに接続する部品の特定とモデル収集

ネットのリストが完成した後は、次のステップとして、それぞれのネットに接続されているICや受動部品のリストアップを行います。たとえば、ドライバICとレシーバICの型番や、プルアップ抵抗などが該当します。これにより、どの素子が信号の品質やタイミングに影響を与えるかを把握できます。

リストアップされたICごとに、対応するシミュレーションモデルとデータシートを入手します。筆者が利用しているSIシミュレーションツールでは、IBIS(I/O Buffer Information Specification)フォーマットのモデルが必要であるため、各ICメーカーの公式Webサイトを活用して、該当するモデルを探し出します。

IBISモデルのほかに、モデルのバージョンや対象プロセス(CMOS、TTLなど)にも注意を払う必要があります。モデルが古い場合や、必要なピン情報が不足している場合は、解析精度が低下する可能性があるため、最新かつ正確なデータを選ぶことが求められます。

データシートについても同様に、ICメーカーのサイトからPDF形式でダウンロード可能です。もし必要な情報が見つからない場合には、製品の設計担当者や回路開発チームに依頼し、社内で保有している資料を共有してもらうようにしています。このようにして、ネットとそれに接続する部品に関する準備を丹念に行うことで、より精度の高いSIシミュレーションが実現できます。

動作周波数の特定

動作周波数の設定は、SIシミュレーションにおいて非常に重要なステップでありながら、多くの技術者にとって最も困難なポイントの一つでもあります。筆者も例外ではなく、特にデータシートの内容を的確に読み解くことが大きな課題となっています。使用しているSIシミュレーションソフトでは、波形を取得する際に必ず周波数を指定する必要があり、この値が正確でなければ、得られる波形も信頼性を欠いてしまいます。

理想的には、回路図や設計資料に明確に周波数情報が記載されていることが望ましいのですが、現実にはそうした情報が不足しているケースも多々あります。そうした場合、開発元や設計担当者に問い合わせて確認を取る必要があります。具体的には、使用しているクロック源の仕様や、通信規格のプロトコル仕様からも周波数の目安を導くことができます。

過去に同様の回路構成でSIシミュレーションを行ったことがあれば、その時の解析データやレポートを参照することが非常に有効です。こうした過去データの積み重ねが、実務の現場では貴重なナレッジベースとなります。ただし、新規設計でこれまでに使われたことのない部品や構成を扱う場合には、信頼できる前例が存在しないため、各種資料をもとに丁寧に調査を行う必要があります。

特にデータシートの中で重要なのは、最大動作周波数や推奨条件に関する記述です。また、製品によってはグラフや表形式で動作条件が示されていることもあり、それらを読み解くスキルも求められます。ICの仕様書によっては複数の周波数条件が存在する場合もあり、その中でどれを基準とすべきかを判断する力が必要です。

また、設計者が提供してくれる周波数情報は、しばしば回路全体の基準周波数であることが多く、それが直接シミュレーション対象の信号と一致するとは限りません。単純にその値をシミュレーションに使用すると、実際の動作とは異なる波形が得られる可能性があるため、注意が必要です。そのため、回路の動作原理や信号の伝送距離、負荷条件なども考慮し、より現実に即した条件設定を行うことが求められます。

このように、動作周波数の設定は、単なる数値入力ではなく、回路全体の理解とデータシートの精読、さらに周辺条件との整合性を見極める複合的な判断が求められる工程です。今後はデータシートをより的確に読み解けるよう、技術文書の読解力を高めることが個人的な課題でもあります。

まとめ

SIシミュレーションの準備には、実際に取り組んでみると予想をはるかに超える労力と細かな作業が伴うことを実感しました。単にソフトウェアを操作するだけではなく、基板構造の詳細情報、対象ネットの選定、各種シミュレーションモデルの収集、周波数設定など、いずれの工程にも専門的な知識と注意深さが求められます。加えて、それぞれの情報が正確であるかどうかを確認するための検証作業や、関係部署との情報共有、設計意図の再確認なども並行して進める必要があります。

また、準備段階でのミスや情報不足は、そのまま解析結果に影響を及ぼしてしまうため、一つひとつの工程を丁寧に確認しながら進めることが非常に重要です。ときには情報収集だけで数日を要することもあり、効率と精度のバランスをとるための工夫が求められます。こうした経験を通じて、準備工程の積み重ねこそが高品質なシミュレーション結果につながるという認識を強く持つようになりました。

SIシミュレーションは奥深く、一筋縄ではいかない作業ですが、だからこそしっかりとした下準備を行うことで、信頼性の高い結果を得られる達成感があります。今後も継続的にノウハウを蓄積しながら、より効率的かつ正確な準備作業を目指していきたいと考えています。

コメント

タイトルとURLをコピーしました