はじめに

2019年、台風19号による阿武隈川の氾濫で、パナソニック郡山工場が浸水しました。
当時、この工場は国内シェア約40%を占めるプリント基板材料を生産しており、稼働停止は電子機器業界全体に影響を及ぼしました。
しかし、この出来事は単なる災害ニュースではありません。
設計者にとっては、
「材料が止まったら、設計はどうなるのか?」
という現実的な問題を突きつけた事例でした。
本記事では、実際の設計現場で起きたことと、そこから得た教訓を整理します。
自然災害がサプライチェーンを止めるという現実
2019年10月、台風19号の豪雨により福島県の阿武隈川が氾濫。
郡山中央工業団地が冠水し、パナソニック郡山事業所が浸水しました。
この工場では、
- FR-4系材料
- R-1566
- R-1766
などの多層基板用材料が生産されていました。
材料供給が止まると、基板は作れません。
そして基板が作れなければ、製品は完成しません。
設計が終わっていても、です。
実際の設計現場で起きたこと
私が担当していた基板には、
- USB
- DDR2
が搭載されていました。
R-1566に合わせて配線幅や間隔を設計し、DDR2部分はSI解析も実施済み。
10月末にはレイアウトが完了し、ガーバーデータも完成。
ところが――
材料が入手できないため、試作が止まりました。
設計は終わっているのに、前に進めない。
設計者としては非常に無力感のある状況でした。
代替材料への切り替え判断
その後、海外生産品であるR-1566(W)が確保できるとの連絡が入りました。
基本的な電気特性は同等。
この「同等」が非常に重要でした。
もし特性が異なっていれば、
- インピーダンス再設計
- 配線幅再計算
- SI再解析
- 納期再調整
が必要になります。
しかし今回は、
電気特性が同じだったため、再設計は不要
層構成確認のみで試作へ進めました。
設計者が学ぶべき3つの教訓
① 材料依存リスクを理解しておく
設計時に使っている材料が、
- どの工場で作られているのか
- 代替品があるのか
- 特性は完全一致か
ここまで把握している設計者は多くありません。
しかし今回の件で、材料リスクは現実の問題だと実感しました。
② 「特性が同じ」ことの意味
単に「FR-4だから大丈夫」ではありません。
高速信号を扱う基板では、
- 誘電率
- 損失正接
- 板厚公差
が変わるだけで設計条件は変わります。
今回助かったのは、特性が同等だったからです。
これは偶然に近い。
③ サプライチェーンは設計条件の一部
設計仕様書には書かれていませんが、
供給安定性も設計条件の一部
です。
自然災害、地政学リスク、パンデミック。
設計者はこれをコントロールできません。
しかし、想定はできます。
今も続くリスク管理の重要性
台風19号の後、新型コロナの影響も重なり、供給不安は長期化しました。
この出来事以降、私は
- 代替材料の有無を確認する
- 特性データを事前に比較しておく
- 可能なら二重ソースを検討する
ようになりました。
まとめ
台風19号による郡山工場の浸水は、単なる自然災害ではありませんでした。
それは、
設計は材料供給に支配される
という現実を突きつけた出来事でした。
設計がどれだけ完璧でも、材料がなければ基板は作れません。
今回の経験は、サプライチェーンリスクも設計判断の一部であることを教えてくれました。

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