基板設計の現場では、さまざまな形式のデータが支給されます。
ネットリストはテキスト、BOMはEXCEL、回路図はPDF、仕様書はWordやVISIO。形式は違っても、どれも設計の前提となる重要な情報です。
その中で、意外と戸惑う場面があります。
「BOMが編集できない」
「セルがロックされている」
「シート保護を解除しないと修正できない」
納期が迫っているときほど、すぐに解除して作業を進めたくなるものです。しかし、少し立ち止まって考える必要があります。
なぜ保護されているのか。
自分が解除してよい立場なのか。
修正の責任はどこまで及ぶのか。
この記事では、基板設計で支給されるデータの全体像から、BOM保護の意味、解除手順、そして実務上の判断軸までを整理します。単なる操作解説ではなく、「現場で迷わないための視点」をお伝えします。
基板設計で支給されるデータの全体像
まずは整理から始めましょう。基板設計で一般的に支給されるデータは次のとおりです。
ネットリスト(テキスト)
回路図CADから出力された接続情報です。
どの部品のどのピンが、どの信号で接続されているかが記述されています。
これは配線の正しさを保証するための基準データです。基板CADに取り込むと、回路とパターンの整合チェックが可能になります。
BOM(EXCEL)
部品表です。
部品番号、型番、メーカー、数量、実装区分などが一覧化されています。
発注や実装に直結するデータであり、設計成果物の一部といえます。
回路図(PDF)
設計意図を確認するための資料です。
ネットリストだけでは読み取れない回路構成やブロック分けを把握できます。
仕様書(Word/EXCEL/PDF/VISIO)
外形寸法、層構成、使用禁止部品、温度条件など、設計制約が書かれています。
これらを総合して初めて、基板設計が成立します。
つまりBOMは「単なる一覧表」ではなく、回路・仕様と並ぶ正式な設計インプットなのです。
なぜBOMのEXCELに保護がかかっているのか
BOMに保護がかかっている理由は、主に次の4つです。
誤編集の防止
数量セルや型番セルをうっかり削除すると、発注ミスにつながります。
とくにフィルタ操作後の削除は、見えない行まで影響することがあります。
数式の破壊防止
集計列に数式が入っているケースがあります。
ここを上書きしてしまうと、数量計算が崩れます。
承認済みデータの固定
すでに社内承認を経たバージョンである可能性があります。
意図しない変更を防ぐために保護している場合があります。
改版管理の統制
変更履歴を管理するため、元データは固定し、改版番号付きで再発行する運用もあります。
つまり保護は「意地悪」ではありません。
設計品質を守るための措置と考えたほうが自然です。
編集できない原因の切り分け
BOMが編集できない場合、原因は複数考えられます。
シート保護
最も多いケースです。
「校閲」→「シート保護の解除」で確認できます。
ブック保護
シート追加や削除が制限されています。
読み取り専用
ファイルが読み取り専用で開かれている場合があります。
保存時のプロパティ設定や共有環境の制限が原因です。
パスワード付き保護
解除にパスワードが必要です。
この場合、無断解除は避けるべきです。
まずはどの保護なのかを確認する。
焦って操作する前に、状況を見極めることが重要です。
EXCEL保護の基本的な解除方法
シート保護の解除
- 「校閲」タブを開く
- 「シート保護の解除」をクリック
- パスワード入力(必要な場合)
解除自体は数秒で終わります。
ブック保護の解除
「校閲」→「ブック保護の解除」で確認します。
パスワードがある場合
ここが判断の分かれ目です。
パスワードが設定されているということは、「意図的な制限」があるということです。
その場合は、設計担当者や発行元に確認するほうが安全です。
解除してよいケース/慎重になるべきケース
比較的問題になりにくい例
- 表示幅の調整
- 印刷レイアウト修正
- 自社管理用の補助列追加(コピー上で実施)
慎重になるべき例
- 型番変更
- 実装可否変更
- 数量修正
- メーカー変更
たとえば、代替部品へ変更したつもりでも、回路特性が変わる可能性があります。
ネットリストや回路図との整合も確認しなければなりません。
「作業効率」と「設計責任」は別問題です。
ここを混同しないことが大切です。
実務でよくあるトラブル事例
BOMとネットリストの不一致
ネットリスト上では実装あり、BOMでは未実装。
このズレは実装工程で発覚することがあります。
改版管理の混乱
修正したBOMを上書き保存。
元データが消え、どの時点の情報か不明になるケースです。
「誰が直したのか不明」問題
履歴を残していないと、責任の所在が曖昧になります。
一度トラブルになると、調査に想像以上の時間を取られます。
安全に対応するための実務フロー
現場で実践しやすい流れを紹介します。
必ずコピーを作成
元データは保存したまま、作業用ファイルを作ります。
変更箇所を色付け
後から見返したときに分かるようにします。
変更理由をコメント記載
「代替品入手困難のため変更」など簡潔に残します。
発注前に整合チェック
- ネットリスト
- 回路図
- 仕様書
この3点と突き合わせます。
必要に応じて承認を取る
メールでも構いません。
記録が残ることが重要です。
まとめ
基板設計で支給されるBOMが保護されているのは珍しいことではありません。
その多くは品質維持や改版管理のためです。
解除自体は難しい操作ではありませんが、重要なのは「解除してよい状況かどうか」の判断です。
・まず原因を切り分ける
・意図を理解する
・コピーで作業する
・履歴を残す
この流れを習慣にすると、不要なトラブルを避けやすくなります。
保護は作業の邪魔ではなく、設計品質を守る仕組みの一部です。
その視点を持つことで、基板設計の実務はより安定していきます。

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