差動信号とは何か
基板設計をしていると、
「差動信号(さどうしんごう)」という言葉をよく目にします。
最初に結論から言うと、差動信号とは、
2本の配線を1セットとして使い、
その2本の電圧の“差”で信号を伝える方式
のことです。
まずは「普通の信号」と比べてみる
初心者の方は、
まず 普通の信号(シングルエンド信号) を思い浮かべてみてください。
シングルエンド信号では、
- 信号線が
- 0V なら「0」
- 3.3V なら「1」
- というように
GND(グラウンド)を基準に電圧を判断 します。
これは直感的で分かりやすい反面、
- GNDが揺れる
- ノイズが乗る
と、誤動作につながることがあります。
差動信号は「どちらが高いか」を見る
差動信号では、考え方が少し変わります。
- 2本の信号線がある
- GNDは基準にしない
- 2本の どちらの電圧が高いか を見る
という仕組みです。
たとえば、
- +側が −側より高い → 「1」
- −側が +側より高い → 「0」
というように判断します。
初心者向けに言い換えると、
「何ボルトか?」ではなく
「2本のうち、どっちが上か?」
を見ている信号
と考えると分かりやすいです。
なぜ2本セットにするのか
差動信号が 必ず2本セット なのには理由があります。
基板の上では、
- 周囲の回路からノイズが出る
- 電源やGNDが完全に安定するとは限らない
という状況が常に起きています。
差動信号では、
- ノイズが2本の線に同じように乗る
- すると 2本の差はあまり変わらない
という性質があります。
その結果、
- ノイズがあっても
- 正しい信号として判断しやすい
というメリットが生まれます。
「低電圧・高速」に向いている理由(ざっくり)
差動信号は、
- 大きな電圧変化を使わない
- 小さな電圧の差だけで動作する
という特徴があります。
そのため、
- 電圧を切り替える時間が短い
- 高速で信号をやり取りしやすい
という性質があります。
このため、
- USB
- HDMI
- 高速通信系のインターフェース
などでは、差動信号がよく使われます。
初心者が最初に覚えておけばよいポイント
この時点では、
難しい計算や細かい仕様を覚える必要はありません。
まずは、次の3点だけ押さえておけば十分です。
- 差動信号は 2本で1セット
- GNDではなく、2本の差 で判断する
- ノイズに強く、高速信号に向いている
これが理解できていれば、
次の 「差動信号配線の基本ルール」 がとても読みやすくなります。
差動信号配線の基本ルール
差動信号の配線では、
「細かい数値を正確に守ること」よりも、
配線の考え方を間違えないこと が大切ですここでは、初心者がまず押さえておくべき
最低限のルール を、理由と一緒に説明します。
差動ペアは「必ず2本一緒に」配線する
差動信号は 2本で1セット です。
この2本は、常に一緒に行動させる ことが重要です。
- 片方だけ遠回りする
- 片方だけ別の層に行く
- 途中で大きく離れる
こうした配線になると、
2本の信号のタイミングがずれてしまう 可能性があります。
初心者向けに言うと、
差動信号は
「2人で手をつないで歩く」 イメージ
です。
片方だけ先に走ってしまうと、うまく目的地に届きません。
配線長は「できるだけ同じ」にする(等長配線)
差動信号では、2本の信号が
同じタイミングで受信側に届くこと が重要です。
もし配線の長さが違うと、
- 先に届いた信号
- 遅れて届いた信号
が発生し、
受信側が正しく判断できなくなる ことがあります。
ここで大切なのは、
- 完璧に同じ長さにする必要はない
- ただし 大きな差は作らない
等長配線の許容差は、動作周波数とICの特性で決まる
という考え方です。
初心者のうちは
「見た目で同じくらい」に揃える
という意識で問題ありません。
2本の間隔は「途中で変えない」
差動信号の2本は、
間隔を一定に保ったまま並走 させます。
途中で、
- 急に広がる
- 急に狭くなる
と、信号の伝わり方が変わり、
波形が乱れる原因 になります。
初心者向けに言い換えると、
差動ペアは
「平行なレール」 のようなもの
レール幅が途中で変わると、電車が安定して走れません。
できるだけ真っ直ぐ、素直に配線する
差動信号は、
- 不必要な蛇行
- 意味のない回り道
をさせない方が安定します。
それから、90度曲げは駄目、45度曲げで、高速であればコーナーにRを付ける。
特に初心者がやりがちなのが、
- 等長にしようとして
- 無理にクネクネさせる
ケースです。
等長は大切ですが、
「短く・素直」が基本
等長調整は最後の微調整
という順番を意識してください。
片方だけビアを打たない
差動ペアで層を切り替える場合は、
- 必ず 2本同時に
- 同じ位置関係で
ビアを打ちます。
片方だけビアがあると、
- その分だけ信号が遅れる
- 差動としてのバランスが崩れる
といった問題が起きやすくなりますが、避けられない時は止むなしとします。
初心者がこの章で覚えるべきこと
この章では、次の点が理解できていれば十分です。
- 差動信号は 常に2本セットで考える
- 2本は 同じ道・同じ長さ・同じ扱い
- 無理な調整より 素直な配線
これだけで、
差動信号配線の失敗は大きく減ります。
リターンパスとグラウンドの考え方
差動信号はノイズに強い、とよく言われますが、
「何も考えなくてよい」という意味ではありません。
差動信号でも、
電流の通り道(リターンパス) を意識しないと、
思わぬトラブルにつながることがあります。
電流は「必ず帰ってくる」
まず、一番大切な考え方です。
電流は、行きっぱなしにならない
信号線を流れた電流は、
必ずどこかを通って 元に戻る(帰る) 必要があります。
この「帰り道」が リターンパス です。
初心者向けに言うと、
行きがあるなら、
必ず帰りもある
という、とてもシンプルな話です。
差動信号でもリターンパスは存在する
差動信号では、
- +と−の2本で電流が行き来する
- だからGNDはいらない
と思われがちですが、
実際の基板上ではそう単純ではありません。
高周波になるほど、
- 電流は
一番近くて、流れやすい経路 を通ろうとします。
多くの場合、それが GNDプレーン です。
そのため、
- 差動信号の下に
- 連続したGNDプレーンがある
という状態が、
信号にとって安定しやすくなります。
グラウンドが途切れると何が起きるか
差動ペアの下で、
- GNDプレーンが切れている
- スリットや分断がある
と、電流の帰り道が遠回りになります。
すると、
- ループが大きくなる
- ノイズを拾いやすくなる
- 放射ノイズが増える
といった問題が起きやすくなります。
初心者向けに言うと、
帰り道が遠回りになると
迷子になって騒ぎ出す
ようなイメージです。
初心者が意識すべき配線位置
難しいことを考えなくても、
次の点を意識するだけで大きく改善します。
- 差動信号は
できるだけGNDプレーンの上を通す - GNDの切れ目を
またがない
これだけで、
- リターンパスが安定
- ノイズトラブルが起きにくい
配線になります。
「差動だから安心」は危険
実務では、
差動信号だから大丈夫だと思っていた
という理由で、
トラブルになるケースも少なくありません。
差動信号は確かに強いですが、
- 配線が崩れている
- リターンパスが断たれている
と、本来の性能を発揮できません。
差動信号でも、GNDは大切
これを覚えておけば、
大きな失敗は避けられます。
実務でよくある差動信号配線のミス
差動信号は理屈を理解していても、
実際の配線作業で失敗しやすいポイント がいくつかあります。
ここでは、
「初心者がやりがち」「実務でも実際によく見る」
代表的なミスを紹介します。
片側だけビアを打ってしまう
差動ペアで層を切り替えるとき、
片方の信号線だけにビアを打ってしまう ケースがあります。
これをすると、
- ビアのある側だけ信号が遅れる
- ペアのバランスが崩れる
結果として、
差動信号としての性質が弱くなります。
初心者向けの覚え方はシンプルです。
差動ペアでビアを使うなら
必ず2本同時
※但し、私の経験では、信号が交差しているために、仕方なく片方だけビアを2つ打たなければならないケースもあります。
等長を意識しすぎて蛇行させる
「差動信号は等長が大事」と聞いて、
必要以上に配線をクネクネさせてしまうことがあります。
しかし、
- 不自然な蛇行
- 無意味な折り返し
は、
- インピーダンスの乱れ
- ノイズ源
になる場合があります。
初心者の段階では、
短く・素直が最優先
等長調整は最後に少しだけ
と覚えておくと安全です。
ペアの間隔が途中でバラバラになる
差動ペアは、
- 始点では近い
- 途中で離れる
- 終点でまた近づく
といった配線になると、
信号の伝わり方が安定しません。
これは、
- ペアとしての性質が途中で変わる
ためです。
対策は単純で、
間隔を決めたら、最後まで維持
これだけでトラブルを避けやすくなります。
GNDの切れ目をまたいでしまう
差動信号はノイズに強い、
というイメージから、
- GNDプレーンの分断
- スリット
を気にせず通してしまうことがあります。
しかし実際には、
- リターンパスが遠回り
- ノイズが増える
といった問題につながります。
初心者向けのチェックポイントは、
差動信号の下に
GNDはちゃんとあるか?
これを必ず確認することです。
差動ペアの近くにノイズ源を置く
差動信号のすぐ横に、
- スイッチング電源
- 高電流ライン
- クロック源
などを配置すると、
影響を受けることがあります。
差動信号は強いですが、
無敵ではありません。
できるだけ、
- ノイズ源とは距離を取る
- 別の層に逃がす
といった配慮をすると安心です。
この章のまとめ
初心者が特に注意すべきポイントは次の5つです。
- ビアは 必ずペアで
- 等長より 素直な配線
- ペア間隔は 一定
- GNDの切れ目を 避ける
- ノイズ源から 距離を取る
これを意識するだけで、
差動信号配線の失敗はかなり減ります。
設計後のチェックポイント
差動信号の配線が終わったら、
「なんとなく良さそう」で終わらせず、
最低限のセルフチェック を行うことが大切です。
ここでは、初心者でも確認できるポイントに絞って説明します。
差動ペアとして成立しているか
まずは一番基本的な確認です。
- 2本が 常にペアとして並走 しているか
- 途中で
- 大きく離れていないか
- 片方だけ別ルートになっていないか
回路図上では差動ペアでも、
配線上で崩れている ケースは意外と多いです。
「最後まで2本一緒だったか?」
これを自分に問いかけてみてください。
配線長が極端にズレていないか
厳密な数値を測る必要はありません。
初心者の段階では、
- 明らかに片方が長い
- 明らかに遠回りしている
と感じなければOKです。
もし差が大きそうなら、
- 不要な蛇行がないか
- もっと素直なルートがないか
を見直してみましょう。
GNDプレーンが途切れていないか
差動信号の配線の下を確認し、
- GNDプレーンが連続しているか
- スリットや分断をまたいでいないか
をチェックします。
初心者向けの合格基準は、
「信号の下に
ずっとGNDがありそう」
この感覚で問題ありません。
ビアの使い方に違和感がないか
層を切り替えている場合は、
- ビアは 必ずペアで打たれているか
- 片方だけ増えていないか
を確認します。
「片方だけ多い」「位置がズレている」
と感じたら、見直しポイントです。
ノイズ源との距離は取れているか
最後に配置全体を見渡して、
- スイッチング電源
- 大電流ライン
- 強いクロック
のすぐ横を通っていないかを確認します。
差動信号は強いですが、
近づきすぎない配慮 は必要です。
まとめ
差動信号配線は、
難しい理論や数式を知らなくても、
考え方を間違えなければ安定した設計 ができます。
この記事で押さえておきたいポイントは、次の通りです。
- 差動信号は 2本で1セット
- 電圧差で判断 する信号方式
- 配線は
- 並走
- できるだけ等長
- 間隔一定
- 差動信号でも GNDとリターンパスは重要
- ありがちなミスを避けるだけで失敗は激減する
初心者のうちは、
「完璧を目指す」より
「やってはいけないことを避ける」
これを意識するだけで十分です。
差動信号配線は、
経験を積むほど「意味が分かってくる」分野でもあります。
まずは基本を押さえ、
少しずつ理解を深めていきましょう。

コメント